大判例

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大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)1011号 判決

原告

片木化成株式会社

右代表者

片木恒行

右訴訟代理人弁護士

廣瀬松夫

右補佐弁理士

下倉義朗

被告

山崎化学工業所こと

山崎吉右衛門

右訴訟代理人弁護士

小野昌延

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、原被告が求めた裁判

原告は、

「一、被告は原告に対し金三五〇万円およびこれに対する昭和五〇年三月二〇から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え、

二、被告は別紙イ号物件目録ならびに籍面に示す合成樹脂製容器の製造販売をしてはならない。

三、被告は前項記載の合成樹脂製容器の製品およびその半製品(型抜きをおえたが未だ仕上加工をおえてないもの)並に上記載製品を成型するための金型を廃棄せよ。

四、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並に仮執行の宣言を求めた。

被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二、請求の原因

一、原告は、左の実用新案につき実用新案権を有し、現にその実施をしているものである。

実用新案の名称 合成樹脂製容器に於ける蓋の嵌合機構

登録出願の日 昭和四三年八月三日

出願公告の日 昭和四七年四月二四日(実公昭四七―一一〇三一)

登録年月日 昭和四七年一一月四日(登録第九八三、八四四号)

〈中略〉

二、本件考案の作用効果はつぎのとおりである。

(1)  容器本件1に収納対象物を入れて、同1に蓋体5を帽冠すると、凸鍔2と凹環部6とは嵌合して、掛止片7は凸鍔2の外周側からその内側に滑り込み、凹環部6はその外周(側枠6)の下先端が係止段Aに当るまで本件1を閉蓋し、係止段Aは側枠6の下先端を受け止め、掛止片7は凸鍔2の下先端に掛止し、掛止片7と凸鍔2の下先端との間にはいくらかの隙間を保つ。

(2)  容器の積み重ねに際しては、その荷重によつて凹環部6の内上側は係止段Aの直上部以外の部分において凸鍔2の上縁に密接する。容器の移動等による動揺に際しては、蓋体5は本体1に掛止片7によつて掛け止められたままで、凸鍔の2の外周縁下先端と掛止片7との隙間の限度において、凸鍔2の外周下先端と掛止片7とが触れたり離れたりする、それに応じて、凸鍔2の上縁と凹環部6の内上側との間は離れたり触れたりする。容器1を蓋体5の上に積み重ねたときは、本件1の底面外径が凸環条8に嵌り込む。

このように作用するので、本体に収納対象物を入れ蓋体を帽冠した場合、蓋体の荷重の程度で凸鍔の上縁に触れているので通気が著しく妨げられることなく、容器を積め重ねて搬送する際、動揺等によつて本体から逸脱することなく、容器内外の空気の移動の機会が生じ易く、そのため、容器内がむれる虞れなく、容器を積み重ねて使用の際も重ね易く滑り落ちることもない。〈以下、省略〉

理由

一原告が、登録第九八三、八四四号(実公昭四七―一一〇三一号)名称「合成樹脂製容器に於ける蓋の嵌合機構」の実用新案権者であり、その実用新案登録請求の範囲に、

「図に示すように、容器本体1の開口上縁を外方に型に折曲げて凸鍔2を形成し、凸鍔2の下方の左右相対位置に提手3を取付ける突台4を形成し、蓋体5には容器本体1の凸鍔2と嵌合する凹環部6を外周に、蓋体5を持つためのつまみ9を中央に設けてなる合成樹脂容器に於いて、突台4は凸鍔2の外側壁よりやや突出せしめて係止段Aとなし蓋体5の凹環部6が容器本体1の凸鍔2と接合嵌合した場合蓋体の凹環部外周の下先端が突台4の係止段Aに丁度当合係止するよう構成し、且凹環部6の外周下先縁の数個所に下端を内側に直角に折曲げた掛止片7を蓋体5を容器本体1に帽嵌した場合掛止片7と凸鍔2外周下端に間隙tが出来るよう構成したる上蓋体5には凹環部6の凹凸を利用して容器の底面外径が嵌入する嵌合凸環条8と放射状の補強機10を設けてなる合成樹脂製容器に於ける蓋の嵌合機構」」。と記載されていること、被告が別紙イ号物件目録ならびに図面に示す被告製品の製造販売をしていることは当事者間に争いがない。

原告は、被告製品に、本件登録実用新案の登録請求の範囲に記載の事項がすべて具つていると主張するが、これにつき争いがあるので検討する。

二本件登録実用新案の登録請求の範囲の記載は、つぎのとおり分説することができる。

(1)  図に示すように、容器1の閉口上縁を外方に型に折曲げて凸鍔2を形成し、凸鍔2の下方の左右相対位置に提手3を取付ける突台4を形成し、蓋体5には容器本体1の凸鍔2と嵌合する凹環部6を外周に、蓋体5を持つためのつまみ9を中央に設けてなる合成樹脂容器に於いて、

(2)(イ)  突台4は凸鍔2外側壁よりやや突出せしめて係止段Aとなし、蓋体5の凹環部6が容器本体1の凸鍔2と接合嵌合した場合蓋体の凹環部外周の下先端が突台4の係止段Aに丁度当合係止するよう構成し、

(ロ)  凹環部との外周下先縁の数個所に下端を内側に直角に折曲げた掛止片7を蓋体5を容器本体1に帽嵌した場合、掛止片7と凸鍔2外周下端に間隙tが出来るよう構成し、

(3)  蓋体には凹環部6の凹凸を利用して容器の底面外径が嵌入する嵌合凸環条8と放射状の補強機10を設けてなる合成樹脂製容器における蓋の嵌合機構。

三右本件実用新案の構成要件と本件実用新案公報に記載の考案の詳細な説明ならびに図面を総合するとつぎの事実が認められる。

(1)  本件考案は魚等のなまものの食料品をビニール薄膜袋で包装した上収納しそのまま販売に供する合成樹脂製容器についてその蓋と本体との嵌合機構の改良に係るものであり、その目的とするところはの従来品の欠点、すなわち、前記本件考案の(1)の構成要件のみからなる従来品は通常蓋5の凹環部6の下周縁をさらに内方に曲げて掛止部を形成し、これを容器本体の凸鍔2の下周縁に掛合係止して凹環部6に凸鍔2を密合し容器本体1を気密に閉蓋するようにしているので、通気性を欠き内部で蒸れる欠点があり時にはなまものの収蔵に不都合があつたのと、容器を積重ねて運搬の際容易に外れる不都合があつたのを克服し、(a)蓋体の嵌合を改良して完全密封状態とならないよう適度の換気性を有し、しかも(b)運搬等では容易に外れないようにすることにある。

(2)  右(a)、(b)の目的達成(課題の解決)のため、本件考案は、登録請求範囲に記載の事項を構成の必須要件として構成せられたものであり、前記(2)の(イ)および(ロ)の構成要件は右(a)の目的、(3)の構成要件は(b)の目的を達成するものである。

(3)  本件考案において、前記(2)の(イ)の構成要件に記載のように突台4に「係止段A」を設けるときは、蓋体5の凹環部6が容器本体1の凸鍔2と接合嵌合した場合に、蓋体の凹環部外周の下先端が突台4に設けられた係止段Aに丁度当合係止することにより、それ以上の「密着」を抑止する(公報一頁2欄一七行ないし二三行目)、すなわち蓋体5はそれ以上に容器本体に密接嵌合しないから必要以上の気密性を抑止できる(同3欄二七行ないし二九行目)という使用効果がある。また突台4に係止段Aを形成することは従来のもの以上に容器本体の積重ねにも充分耐えられる堅牢性を有している(同3欄二一行ないし二五行)。

つぎに、前記(2)の(ロ)の構成要件に記載のように、蓋体5の凹環部6の下周縁の数個所(三乃至四個所)に凹環部下端を内側に直角に折曲げた「掛止片7」を形成し、蓋体5を容器本体1に帽嵌した場合に掛止片7と凸鍔2外周下端に間隙tが出来るように構成するときは後記(3)の嵌合環条8と補強桟10の作用効果と相俟つて、積重ねた容器を離す場合、容器本体1の底に下の容器の蓋体がくつついてもち上げられるので、蓋体の「掛止片7」と凸鍔2の下縁の隙間t丈け蓋体が浮いてそのため容器がベロー如き作用をして換気することになり、また時に応じ作為的に蓋体5の「掛止片7」と鍔2の間隙5を上下操作して通気することができる(同3欄一二行ないし一八行)。また、蓋を容器に嵌合したままで僅かに上下動出来それに伴つて換気も行える(同欄三〇行ないし三一行目)との作用効果がある。

そして、前記(3)の構成要件に記載のように、蓋体に「嵌合凸環条8」、「補強桟10」を設けるときは、「嵌合凸環条」は蓋体の上面に容器本体1の底面外径と略同大の内径をもつて凸設し、容器を積重ねた場合底と蓋とが嵌合するよう構成せられているので(同2欄三四行ないし三七行)、嵌合環条8に容器本体1の底部を嵌入し積重ねて使用され(同3欄六行〜七行)、積重ねた容器を離す場合、容器本体1の底に下の容器の蓋体がくつついてもち上げられ、既述の如く、蓋体の掛止片7と凸鍔2の下縁の隙間t丈け蓋体が浮いて換気することになる。

以上の如く認められる。

そうすると、本件考案にいう「係止段A」、「掛止片7」、「嵌合凸環条8」、「補強桟10」はいずれも前記作用効果を奏するような機能を有するものであることは明らかなところである。

四いずれも被告製品であることに争いない検甲第一、三号証、検乙第二号証についてみるに、本件考案における「係止段A」に対応する被告製品における「僅かに凸出した部分P」は、成型原料の型入れ、型合せに際して、その原料が型外にはみ出して型の合せ目等において不定形に固化して出来た成型目的外の附着部分ともみるべきもので、蓋体の凹環部分外周壁下先端がこれに当合した場合に、これ以上の密着の抑圧に堪えてこれを阻止しうるものとは到底認められない。そうすると、被告製品における右「僅かに凸出した部分P」は本件考案における「掛止段A」の作用効果を発揮すべき機能を有しないものであり、右「係止段A」に該当しないことが明らかである。

右事実によれば、被告製品は、既に本件実用新案の必須の要件の一である「掛止段A」の技術要素を欠いているといわなければならない。

五もつとも、原告製品における「掛止段A」は、本件実用新案の考案において係止段Aが有すべき機能に照らし、極めて不十分なものと認められ、これと被告製品の「僅かに凸出した部分P」と比較すると近接した類以性が認められなくはないが、侵害の成否の判断にあたり対照べきものは権利の内容、すなわち本件で言えば、実用新案登録請求の範囲の記載、詳言すれば考案の詳細な説明の項ならびに図面等をしんしやくし、解釈された登録請求の範囲の記載であつて、権利者が現実に実施している製品ではない。したがつて、被告製品が原告製品に類以しているとの事実はそれだけで権利侵害を肯定せしめるものではない。

六以上によれば、その余の争点につき判断するまでもなく、被告の被告製品の製造販売行為が原告の本件実用新案権を侵害するものであるとの原告の主張は理由なく、右主張に基づく本訴請求は棄却を免れず、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(大江健次郎 渡辺昭 北山元章)

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